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『さようなら、オレンジ』

これは、よかった。久々に、読み終わってしばらくぼーっとした。

さようなら、オレンジ (単行本)

さようなら、オレンジ (単行本)

え、Amazonレビューがまだついてないとは。
あんまり受けないのかな。
こんなお話です。帯より。

オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の子どもを育てている。
母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練学校で英語を学びはじめる。
そこには、自分の夢をなかばあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。

異国で、全く違う文化の女性が出会う話、といえばそうなんだけど、創造されるような感動友情物語では全然ない。
冒頭この2人はまったく相容れず、お互いにムカつく、かわいそう、とか思っている。サリマは難民で文盲でひとり親、方やハリネズミは夫がポスドク(たぶん)、自分も英文学の修士課程(たぶん)という高学歴で、それぞれの世界を勝手に想像している。
だいたい、それぞれの名前がちがうのだ。サリマ視点の3人称、ハリネズミが恩師に充てた手紙が交互に出てくるのだけど、2人の、そして周囲の人の呼び名が違う。そうか、文字を持たないからか、と気付くけど、それだけではない2人の違いが伝わってくる。

それが、いくつかのきっかけでお互いの立場や背景に目を向けるようになっていくのが文章に徐々に現れてきて、物語がすごく鮮明に、映画みたいに立ち上がってきた。
文字、表現、教育、それが教養や文化のレベルじゃなく、生活そのものに深く関わっていることに、素直に感動した。

そして、世界が広い。舞台がオーストラリアで、出てくるのはアフリカ、北欧、イタリア、日本と他民族。最近の、都会で孤独とか、郊外でくすぶるとか、教室の中だけとか、ちんまりした小説を読んだ目には新鮮だ。
後半すこしうまくいきすぎるかなというところもあったけど、それも応援したくなるのは、あまちゃん効果でしょうか。