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好きに書いています

『ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏』

1993年からひとりで出版社をしている岩田書院さんの話。

ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏

ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏

学術書専門出版社のようでだいぶ特殊事情もあるようだけど、参考になる部分もたくさんありました。
なによりこの本の元になった「新刊ニュース」の「裏だより」を、創業から毎月のようにコンスタントに出し続けているのがすごい。
売上、経費など数字も公開しているし。

学術書には著者印税を払わないことが多いとか、印税なしを条件に文部科学省の出版助成金というのが受けられるとか、はじめて知ったー。
助成についての一覧もあるとか。これですね。

助成団体要覧―民間助成金ガイド〈2012〉

助成団体要覧―民間助成金ガイド〈2012〉

出版の世界もほんと、いろいろありますね。

「穴」

いろんなところに書いてたメモのまとめです。
単行本化早いですねー

穴

小山田浩子「穴」読んだ。なんだこれは、と言われそう。
でも、仕事辞めて夫の実家隣で専業主婦始めて暇で時間の感覚もなくなって変なものばかり見える、
という恐ろしく現実的な小説、と思った

あと同じ号の小山田さんの西村賢太評も面白かった。
ひとつの場面だけ強烈に覚えてて話の筋は忘れる、だけどそこから西村賢太が描くもの全体に思いが及ぶ、というような

小山田浩子「穴」掲載『新潮』をようやく図書館に返却、待ってる人すみません。候補作になったときは予約も0ですぐ借りられたのにね。芥川賞はすごいですね。
女の人が苛つく状況の中で変な方向に行ってしまうけど生暖かく終わる、静かだけど手に汗握る、みたいでよかったなー
「穴」とえばアリスと、ルイス・サッカーを思い出したけど、何かだぶる部分はありますかね

穴  HOLES (講談社文庫)

穴 HOLES (講談社文庫)

『大杉栄伝 永遠のアナキズム』

やっぱりここに書いていくのが便利なので本についてはここにしよう。

大杉栄伝: 永遠のアナキズム

大杉栄伝: 永遠のアナキズム

たまたま昨年末知り合った著者で、「豚小屋に火を放て」という伊藤野枝論、というか、自分の恋愛の失敗顛末がめちゃくちゃ面白かったのだけど、この本もいい!

すごい詳細な大杉栄伝で、かつ著者の感想や自論がちょいちょい入ってて、血が通ってるというか。
仕事が丁寧で読み応えあるけど、ぽろっと入ってる本音がいい抜け感。
好きなタイプだわー

『さようなら、オレンジ』

これは、よかった。久々に、読み終わってしばらくぼーっとした。

さようなら、オレンジ (単行本)

さようなら、オレンジ (単行本)

え、Amazonレビューがまだついてないとは。
あんまり受けないのかな。
こんなお話です。帯より。

オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の子どもを育てている。
母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練学校で英語を学びはじめる。
そこには、自分の夢をなかばあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。

異国で、全く違う文化の女性が出会う話、といえばそうなんだけど、創造されるような感動友情物語では全然ない。
冒頭この2人はまったく相容れず、お互いにムカつく、かわいそう、とか思っている。サリマは難民で文盲でひとり親、方やハリネズミは夫がポスドク(たぶん)、自分も英文学の修士課程(たぶん)という高学歴で、それぞれの世界を勝手に想像している。
だいたい、それぞれの名前がちがうのだ。サリマ視点の3人称、ハリネズミが恩師に充てた手紙が交互に出てくるのだけど、2人の、そして周囲の人の呼び名が違う。そうか、文字を持たないからか、と気付くけど、それだけではない2人の違いが伝わってくる。

それが、いくつかのきっかけでお互いの立場や背景に目を向けるようになっていくのが文章に徐々に現れてきて、物語がすごく鮮明に、映画みたいに立ち上がってきた。
文字、表現、教育、それが教養や文化のレベルじゃなく、生活そのものに深く関わっていることに、素直に感動した。

そして、世界が広い。舞台がオーストラリアで、出てくるのはアフリカ、北欧、イタリア、日本と他民族。最近の、都会で孤独とか、郊外でくすぶるとか、教室の中だけとか、ちんまりした小説を読んだ目には新鮮だ。
後半すこしうまくいきすぎるかなというところもあったけど、それも応援したくなるのは、あまちゃん効果でしょうか。

おせっかいなユイちゃんで安心

あまちゃんの次週予告を見て、いろいろ想像する週末を過ごすひとりです。
昨日は思わず2回見て、確認したし。
今回のキモは「フィールド・オブ・ドリームス」だっていう声もあるけど、私的にはユイちゃんの、
「口じゃなくて手を動かしましょうよ!」ですね。

ユイちゃんはしばらく、父の病気、母の失踪、ヤンキー化、そして震災と不幸の連鎖で心を閉ざした薄幸の美少女、と見られていた。
先週も、月と太陽の、月と言われてたし。

でもその前の「アイドルになりたーい!」と叫んでた頃のユイは、結構おせっかいキャラだったんだよね。
アキが片思いする種市先輩に毒づいたり、アイドルユニット名とかポーズとか考させたり、海士のみなさんのダンスの練習でビシビシ指示したり。
つまり、他者に結構厳しかった。

それが度重なる事件以降、他人にも、自分にすら無関心になっていて痛々しかったんだけど、先週くらいからちょっと様子が違ってきた。
またアキの恋愛にちょっかい出し、海士のおばさんに毒づき始めた。
そして、「手を動かしましょうよ!」です。
これ、アマーソニックの練習のときにも言ってたような気がするんだけど、ユイちゃんのすごい情熱の現れみたいな気がします。
水口の「またお座敷列車を」発言が、北三陸だとは思わなかったけど、ようやく実現するのかもね。
でもあのユイちゃんを見てたら、もうどっちでもいいや、という気になってきたわ。
自分も、他者も、存在を認めて深くコミットしてる姿が、それだけでじーんとしてしまったのです。
別に「月」みたいな存在じゃなくて、おせっかいなおばさんでもいいから、自らかがやいてほしいなーと。

票が集まったことと現実は別

2020年オリンピック東京開催が決定した。
直前の汚染水報道とその対応からして、これはないだろうと確信していたけど、プレゼンテーションが好評価で大差で決まってしまった。
プレゼンは、確かに他の2都市よりは巧みだった。高円宮妃の冒頭のフランス語、英語のあいさつは皇室ならではの洗練されたものだったし、東北出身のパラリンピック選手の体験を交えたスピーチ、みんなが萌えた滝川クリステルのフランス語、首相の自信満々の態度、どれも惹き付けるものがあったと思う。
直前の池上彰特番でやってたけど、ロンドン五輪誘致を成功させたコンサルタントに頼んだとかで、IOC委員に受けがいいものを作ったんだろう。どれだけコンサル料払ったのか、都民税で、とかも思うけど結果に結びついたから、作戦的には大成功だった。

でもこの成功、委員の票を獲得するための戦略がうまくいったというだけで、日本の現状が肯定された、ということじゃない。
安倍首相が「汚染水は完全にコントロールされている」「これまでも今も今後も、害を及ぼすことはない」って断言したのはそういうことだろう。
だってどう考えたって、ウソじゃん。
私はテレビの前で凍り付きましたけど。子どもでさえあぜんとしてたよ。
だけど、決まったら「素晴らしいスピーチだった」「完璧だった」と、ほんとに原発事故も放射能汚染のこともなかったかのように、国民みんなが歓喜、みたいなことになっているのが気持ち悪い。

決まったんだから全面的に応援しろという同調圧力はごめんである。
けど、ウソでも言っちゃったなら、本当に「責任を持って必ず制御」を実現するんだろうから、それは注視していきたい。
だからまず帰国して、福島に説明に行くんだろうね?と思う。

250km離れたところで五輪報道は

東京のオリンピック招致、汚染水対応がごたごたすぎて、もう見たくないわ。
「250km離れてるから東京は安心」という一方、メダリスト達が「オリンピックを“日本”へ!」という。記者の質問攻勢に具体的な回答できずに「首相が対応話すから」と国まかせ丸出し。
ただお粗末で恥ずかしいし、そんな国信用できない、と思うのが普通の感覚だと思うが。

だいたい、東京中オリンピックのポスターが貼られて、学校にまで(都立だけか?)デカデカと横断幕がかかげられて、なんか総出で歓迎してる体だけど、そんな話題したことないし。
来てもらいたいのは儲かる業界だけでしょう。しかもそんなことやってる場合か。と、薄々思ってたところでの汚染水問題、これでやっぱり変だ、やらなくてよし、という空気に、なるべくしてなったのではと思う。

というのは東京にいて感じることだけど、250km離れてると言われた福島では、五輪問題をどう扱っているのだろう。ひどい言われように、怒りはないのだろうか。福島の新聞、「福島民報」をみてみた。
一面は、もちろん汚染水漏れ、原発事故関連。震災以降2年半、新聞の一面がずっと原発報道、という日常を福島の人はおくっている。
五輪関連など見当たらないのだけど、たまたま6日は論説「あぶくま抄」で取り上げられていたので引用します。

あぶくま抄(9月6日)

 2020年夏季五輪の開催地が8日早朝決まる。半世紀余り経た東京の感動は再びあるのか。その後の決定も注目される。レスリング、野球&ソフトボール、スカッシュの中から、実施する最後の競技を選ぶ。
 どうなるにせよ、国内のスポーツ関係者が心を痛める。五輪でレスリングのメダル獲得数は62個。体操、水泳、柔道に次ぐ。野球&ソフトボールは北京五輪後に外されたが、日本の競技人口は多い。第一線の選手や指導者と身近に接したことのある県民も複雑だろう。
 ロンドン五輪レスリングで3連覇した吉田沙保里さんと、引退寸前から栄冠を得た小原日登美さんは二本松、会津若松両市で原発事故の避難者を励ました。金メダルにも触れた仮設住宅住民は「意外にきゃしゃだった」と驚いた。逆境をはね返した姿を思い出すたび、胸を熱くするという。
 ソフトボール元日本代表監督の宇津木妙子さんは今夏、二本松で中学生を指導した。屋外で十分練習できない環境を知り、「元気づけるため何度でも足を運ぶ」と誓った。「諦めないで」の掛け声に、ノックの打球を受ける返事も大きくなった。最高の舞台に立つ夢は引き継がれ、膨らむ。

そうか、開催地だけじゃなくて、競技の最終決定もするのか。福島民報は、オリンピックの主役であるスポーツ選手を気にかけていた。原発事故後に福島を訪れた選手に思いを寄せていた。招致委員の発言に激怒するかわりに、五輪精神を静かに語られ、せめて東京開催にはなりませんように、かわりに原発事故対策に本気で取り組みますように、と思う。